底のない蒼穹とはるか彼方で交わるのは、柔らかく、しかし濃い緑。世界を二分する色の一方は、時折吹いた風になぶられ波打ち、生き物のようにざあっと鳴いた。
視界の片隅で地平を遮るように佇む巨木と同様に草の中に身を浸し、コルセリアは地平を眺めていた。
グラスカの宮殿では決して見ることのなかった、人工物に遮られることのない風景。それに新鮮さを感じながらも、完全にこの風景に浸ることは出来なかった。
今の自分は、知っている。この草原もクールークであるなら、人々から陰さえ感じる街もまた、クールークなのだと。宮殿を出るまでは考えもしなかった世界が、今のこの国の姿であると。
父と母は――知っているのだろうか。この国の本当の姿を。イスカスの陰謀に隠れて見失っているのだろうか。それとも、敢えて目を背けているのだろうか。
「――コルセリア?」
「きゃあっ!?」
思考の渦に呑まれるのを阻むかのように一瞬で意識を現実に戻され、コルセリアは思わず悲鳴を上げた。いつの間にか、キリルが屈み込んで不思議そうに彼女の顔を覗き込んでいる。
「どうかした?ぼうっとしてたけど」
「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事してて……」
こちらの反応にキリルは軽く首を傾げながらも立ち上がった。
「ならいいけど、程々にした方がいいよ。眉間にシワ寄ってハインズさんみたいになっちゃうよ?」
「キリルッ!」
真っ赤になって怒鳴ると、キリルは声を上げて笑ってくれた。
良くも悪くも彼は感情豊かで素直だ。それが似合うと思うし、眩しいとも思う。こうしたたびの骨休めでよく目にする彼の、青年というよりは少年のような姿が、コルセリアは好きだった。別にそれ以外が嫌、というわけではないけれど。
「――あっ!」
唐突に強く吹いた風がコルセリアの帽子をふわりと持ち上げ、さらっていく。反射的に手を伸ばそうとしたが、エメラルドグリーンの帽子は横から伸ばされた手に受け止められ、静かに彼女の許へと戻ってきた。
「今日は風強いね。気をつけた方がいいよ。大事なものなんだろう?」
先ほどと変わらぬ屈託のない笑顔を向けてくるキリルから帽子を受け取り、何とか頷いた。彼は「戻ろう」と告げ、先に歩き出す。
キリルは――何も言わない。何も聞いてはこない。気を遣っているのではなく、当たり前のように「コルセリア」という一人の人間を受け入れてくれている。それが何より嬉しかった。
そんな彼が――好きだった。
「キリル」
キリルが振り返る。風が彼の黒髪を撫で、金色の瞳をけぶらせた。
「――ありがとう」
私を「私」として見てくれて。私に今の居場所を与えてくれて。
「どういたしまして」
柔らかくキリルが微笑んだ。「戻ろう」と促してくるのに頷いて、彼の後を追う。
一体どこまで通じただろうか。別にわかっていなくても構わないけれども。
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如何にカップリングネタだとしても私がやるとこの程度が限界です。
戦闘時の会話を見ている限りでは、少なくともコルセリアの片想いはありそうなのでこんなネタに。
当初はラズリルでしたが、イメージ的に群島は4なのでラプソらしい場所に移動しよう、ということでザスタ草原になりました。私的にラプソの舞台イメージは草原です。(クールークと言った方が正しいかもしれませんが)モンスター退治が出来る所とはそれなりに離れてると思って下さい。この場で出来ると危険なので。(笑
一応シリアスと思ってるのでキリル君も至って普通……に書いたつもりです。ボロが出てそうな箇所もありますが。多少は同年代より幼いと思ってます。その分純粋だと。そうした部分とあの一途さに惹かれたのではないかなー、という願望です。