――風騎士フィル・オードウィンに告ぐ。風術士シエラと対面せよ。
相性により適性が判断されたのであれば、二十日以内に吉日を選び契約の儀を行う――
下された辞令はこれ以上ないほどに急だった。
確かに今、都市周辺の治安はあまり良いとは言えない。優れた術士を護ろうとするためにこうした措置が取られたであろうことは、私であっても想像が出来る。
だが、幾ら何でも急ぎすぎではないだろうか。
辞令を受け取る際に進言してはみたものの、ロクに取り合ってもらえず今に至っている。部隊長ですらないただの騎士の扱いはそんなものだ。
……とはいえ、対面の日となってしまってはもう辞退することも出来まい。
私が契約すると知って兄は我が事のように喜んでくれたし、一度受けたものを「気が引けるので」と突き返したら、果たして騎士団長にどんな顔をされるか……想像するだに恐ろしい。
胸中で我が身の不幸を嘆きながら、私――フィル・オードウィンは目の前の扉を叩いたのだった。
妙な話だった。
これまでに聞いていた話では、普通は対面から契約までは最短でも半年。長くて五年強。
……さすがにそれは途中で身体でも壊したか、修復に時間のかかるようなケンカでもやったんじゃないかと思うけど。
問題はそこじゃなくて、何で短くても半年かかるモノが、あたしの時は二十日以内なんだろうってこと。
「一目惚れでもされたかな?」
「いねえよ、そんな悪趣味な奴……」
失礼極まりない発言をしてくる弟の脛は、遠慮なく蹴飛ばしておいた。
こっちは真面目に考え事をしているのに、勝手なことを言い出す方が悪い。あたしを何だと思ってるんだ、こいつは。
「こんだけ短いと……駄目だったらすぐ次の人紹介されそうね……」
「……別にいいんじゃないのか?便利な使いっ走りが出来るぜ?」
あんたの意見は聞いてない。
「面倒なことにならないといいけど……」
いちいち余計な発言が飛び出す弟の頭に容赦なく拳骨を一発落として、あたし――シエラは軽く溜息をついた。
かつて、そこには神がいた
そこに在ったのは吹き荒ぶ風と荒れた大地
神は風を宥め、地を慰み、世界を創り上げた
肥沃なる世界を創り上げた神を、”央”と称する